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法務省が16類型の新回答公表「弁護士法72条のAI契約書レビュー問題」― 拙稿「弁護士法第72条とリーガルテックの規制デザイン(上/下)」原稿補正のメモ

<2023年2月更新: リーガルテックと弁護士法> 最新の研究情報は下記のとおりです。

①[報告と御礼] 規制改革推進会議「契約書の自動レビューと弁護士法」(有識者として参加してまいりました)

②新規論説:渡部友一郎=角田龍哉=玉虫香里『弁護士法72条とリーガルテックの規制デザイン(上)』ビジネス法務2023年2月号92-96頁

③新規論説:渡部友一郎=角田龍哉=玉虫香里『弁護士法72条とリーガルテックの規制デザイン(下)』ビジネス法務2023年3月号131-135頁

④新規論説:渡部友一郎「基礎からわかるリーガルテック(11) 規制改革推進会議における弁護士法72条と契約書自動レビューの議論(上)」月刊登記情報63巻1号(2023年)60-66頁

⑤新規論説:渡部友一郎「基礎からわかるリーガルテック(11) 規制改革推進会議における弁護士法72条と契約書自動レビューの議論(下)」月刊登記情報63巻2号(2023年)[掲載予定]

Yuichiro Watanabe, Does AI Contract Review Violate the UPL (unauthorized practice of law) under the Japanese Attorneys Act (Act No. 205 of 1949, as amended)?, JILA (Japan In-House Lawyers Association) Online Journal (2023)

1. 本記事の要旨(弁護士法72条の抵触=「可能性があることを否定することはできない」=”0%”とは言えない by. 法務省)

2022年10月14日、法務省は、「AI契約書レビューの弁護士法72条問題」に関して、グレーゾーン解消制度という法令適用の有無を照会する制度を通じて、新しい回答書を公表しました。

具体的には、AI契約書レビューの弁護士法第72条(非弁護士の法律事務の取扱い等の禁止)適合性に関して、①弁護士ドットコム様(東京都港区、以下「照会者」といいます。)の 照会書、及び、②法務省の回答書を、ウェブサイトにて公表しています。

本エントリは、筆者が2021年冬から「弁護士法第72条とリーガルテックの規制デザイン」(未公表・今後掲載予定)の調査・執筆を行っていること(下記3をご高覧ください)から、補正用の実務的考察(メモ)として、法務省の「弁護士法第72条とAI契約書レビュー」に関する2022年10月14日回答の結果を備忘・速報としてまとめたものです。

Executive Summary

16類型の12パターンにおいて「適法」とスパッと明示的に示された回答はなく、事実、回答の締めくくりは『[16類型のいずれについても]個別具体的な事情によっては、弁護士法第72条本文に違反すると評価される可能性があることを否定することはできない』という…否定することができない(0%とは言えない)回答の総括となっております。

逆に、適法を窺わせるパターンも16類型の4パターンで示されています。AI契約書レビューサービスの利用者を弁護士又は弁護士法人に限定する場合(下図における横軸4条件の左から3番目の条件 及び その縦軸)に関して、法務省は、『弁護士…が業務として法律事務を行うに当たって本件サービスを補助的に利用するものと評価されるとき』には適法という初判断を示しています。

一方で、『利用者の社内弁護士の監督があることを条件とする場合』(下図における横軸4条件の左から4番目の条件 及び その縦軸)については、弁護士法第72条の該当性を否定する事由とは捉えていないこともわかりました。

補論:さらに検討が必要な事項(留保事項)

(グレーゾーン解消制度の限界:本稿では深く立ち入りませんし、特定の誰かに対する批判・批評でなく、根源的に素朴な疑問として、複雑多岐な私達が”呼吸する”この世界において、適用の確率が「0%」という「法律(ルール)」は存在しうるのでしょうか。ここに法律が定める「ルールA」があるとします。「ルールA」は5つの要件で構成されているとします。特定の事実関係が各要件を充足するか否かは、事実次第です。ところが、「1万、1億、1兆…」論理的に無限に広がる私達が呼吸する世界の事実関係を我に与えよ、さもなければ、0.01%といえどもルールAが適用される可能性は否定できない。

これは論理的には正しい記述であったとしても、グレーゾーン解消制度を定める産業競争力強化法の目的(第1条)が『我が国経済を再興すべく、我が国の産業を中長期にわたる低迷の状態から脱却させ、持続的発展の軌道に乗せるため…経済社会情勢の変化に対応して、産業競争力を強化することにあることを念頭に置くと、我が国の産業競争力を強化している叙述方法なのかは、産業競争力法のグレーゾーン解消制度に内在する問題として検討されるべきだと思います。)

2. 2022年10月14日回答(法務省)のまとめ

2-1: 2022年10月14日回答(法務省)の結論をまとめた図

2022年10月14日回答の結果を図にすると下記の通りでした。

レビュー対象契約書を限定する場合本件サービスの提供価格を無償とする場合本件サービスの利用者を弁護士又は弁護士法人に限定する場合利用者の社内弁護士の監督があることを条件とする場合
AIレビュー型(①-1)(1)「その他一般の法律事件」に関するものを取り扱うものと評価される可能性がないとはいえない
(2)「鑑定」に当たると評価される可能性がある
「報酬を得る目的」がないと一概に判断するのは困難 [左記結論を左右しない]弁護士…が業務として法律事務を行うに当たって本件サービスを補助的に利用するものと評価されるときは別として…補助的に利用するものではないと評価されるときは、該当性が否定されることにはならない [左記結論を左右しない]該当性が否定されることにはならない [左記結論を左右しない]
AIレビュー型機能制限版(①-2)(1)「その他一般の法律事件」に関するものを取り扱うものと評価される可能性がないとはいえない
(2)「鑑定」に当たると評価される可能性がある
同上同上同上
自社ひな形参照型(②-1)(1)「その他一般の法律事件」に関するものを取り扱うものと評価される可能性がないとはいえない
(2)
2-1 解説及びリスク判定の結果:「鑑定」に当たると評価される可能性がある
2-2 留意事項の表示レビュー対象契約書の条項等のうち、あらかじめ登録した契約書のひな形の条項等と異なる部分がその字句の意味内容と無関係に強調して表示され、また、利用者が自ら入力した内容がその意味内容と無関係にそのまま機械的に表示されるにとどまるものである限り、「鑑定(中略)その他の法律事務」に当たるとはいい難い
<ただし>法的効果の類似性を表示するものと評価される場合には、「鑑定」に当たると評価される可能性がないとはいえない
2-3 類似度判定の結果:レビュー対象契約書の条項等と契約書のひな形の条項等との言語的な意味の類似性の程度を表示するにとどまるものである限り、「鑑定(中略)その他の法律事務」に当たるとはいい難い
<ただし>法的効果の類似性の程度を表示するものと評価される場合には、「鑑定」に当たると評価される可能性がないとはいえない
同上同上同上
自社ひな形参照型機能制限版(②-2)(1)「その他一般の法律事件」に関するものを取り扱うものと評価される可能性がないとはいえない
(2)レビュー対象契約書の条項等のうち、あらかじめ登録した契約書のひな形の条項等と異なる部分がその字句の意味内容と無関係に強調して表示され、また、利用者が自ら入力した内容がその意味内容と無関係にそのまま機械的に表示されるにとどまるものである限り、「鑑定(中略)その他の法律事務」に当たるとはいい難い
<ただし>法的効果の類似性の程度を表示するものと評価される場合には、「鑑定」に当たると評価される可能性がないとはいえない
同上同上同上
図1:2022年10月14日回答の要旨(筆者が独自に作成)

弁護士法第72条本文には6つの要件があります。違反した場合には、同法第77条第3号により、2年以下の懲役及び300万円以下の罰金が課せられる場合があり、法人には両罰規定があります(第78条第2項)。

  1. 弁護士又は弁護士法人でない者が
  2. 報酬を得る目的
  3. 訴訟事件、非訟事件及び審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して
  4. 鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを
  5. 業とすること
  6. 他人性すなわち「自己の法律事務」に該当しないこと(⑥は明文を欠く)

2-2: 2022年10月14日回答(弁護士ドットコム様)の照会書

2022年10月14日の照会書は次の通りです。

契約書レビューサービスの提供」の照会書

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リスク検出による適切な契約管理サービス」の照会書

2-3: 2022年10月14日回答(法務省)の回答書

2022年10月14日の回答書(1)「契約書レビューサービスの提供」は下記の通りです。

「その他一般の法律事件」該当性について

第1の特筆すべき点としては、従来から事件性必要説(またはこれに近い要件を求める立場)を採用していると解されてきた法務省が、事件性必要説(またはこれに近い立場)を採用することを、回答書において、正面から記載している点かと思います。

弁護士法第72条本文に規定する「その他一般の法律事件」に該当するというためには、同条本文に列挙されている訴訟事件その他の具体的例示に準ずる程度に法律上の権利義務に争いがあり、あるいは疑義を有するものであることが要求される

レビュー対象契約書に係る契約は、その目的、契約当事者の関係、契約に至る経緯やその背景事情等の点において様々であるところ、「その他一般の法律事件」に該当するか否かについては、このような個別具体的な事情を踏まえ、個別の事案ごとに判断されるべき事柄である。

「鑑定(中略)その他の法律事務」該当性について

第2の特筆すべき点としては、結論から言えば、一部ですが、鑑定に該当しない場合が明示されています。詳細は冒頭の4x4の図をご覧ください。

「鑑定(中略)その他の法律事務」に当たるとはいい難い

同時に、上記のような一部の場合を除いて、全体としては、鑑定にあたる可能性がないとはいえない、として上記同様「可能性がないわけではない」(0%ではない)という回答です。

「鑑定」に当たると評価される可能性がある

「鑑定」に当たると評価される可能性がないとはいえない

(私見)可能性がないわけではない、という苦渋の回答とご担当部署への敬意

玉虫色の回答ではないか、グレーゾーンが解消されていない、というビジネス的な視点からの批判も今後出てくるかもしれません。

しかし、その一方、私が回答書を起案する側であれば、虚心坦懐に検討しても、言い切るのが難しく、センシティブな事案だったのではないか、ずばり、行間に滲む苦渋を私達は察することもできるのではないかと考えております。

と申しますのは、この回答の在り方は、なにか所管官庁のいじわるや悪意ある回答の結果ではなく、グレーゾーン解消制度及び運用自体に内在する限界とも言える問題であり、現場のご担当者様の苦悩は大きかったのではないかと思います。

注目度の高いグレーゾーン解消制度の回答であり、今後、様々な批評が出てくることを考えると、浅学非才の私からは、法務省のご担当部署・ご担当者様には、16類型について詳細に検討され、まとめられた点について、敬意しかございません。

まだ読み込めていない部分も沢山ありますので、記載に誤解や盲点があればお許しください。

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続いて、2022年10月14日の回答書(2)「リスク検出による適切な契約管理サービス」の提供は下記の通りです。

2-4: 弁護士法第72条とグレーゾーン解消制度についてさらに詳しく検討されたい方におすすめ

資料松尾先生の先行研究(最新のリンクを敬意をもって掲載します)

資料② 少し先にはなりますが、下記4の通り、2022年12月下旬頃に拙稿が掲載される予定でございます。もし何かの折、ご関心があれば、ご高覧たまわれれば幸いです。また改めてご案内申し上げます。

2-5: 法務省の公式ウェブページは下記です。

☞ 法務省:産業競争力強化法第7条2項の規定に基づく回答について(別窓で開きます)

3. 前回までのつづき

3-1: 関連する過去の記事

  1. 2021年12月4日付記事:今週の登壇:東京大学 先端ビジネスロー 国際卓越大学院プログラム「リーガルテックの先行研究と新潮流(過去・現在・未来)」
  2. 2022年2月27日付記事:新連載スタート「基礎からわかるリーガルテック」月刊登記情報62巻3号
  3. 2022年6月5日付記事:新規論説:渡部友一郎「基礎からわかるリーガルック(4)AIによる契約書レビュー(上)」月刊登記情報62巻6号(2022年)28-35頁
  4. 2022年7月4日付記事:渡部友一郎「基礎からわかるリーガルテック(5)AIによる契約書レビュー(下)」月刊登記情報62巻7号(2022年)52-58頁
  5. 本記事との関連性が最も高い記事☞ 2022年9月7日付記事: [照会書本文] 誰が?どのような意図で?グレーゾーン解消制度を利用した「AI契約書レビュー」の弁護士法上の適法性の照会に関する備忘

3-2: 東京大学 先端ビジネスロー 国際卓越大学院プログラム 資料再掲(21年12月当時のものですが、何かのお役に立てば幸いです)

21年12月、東京大学 先端ビジネスロー 国際卓越大学院プログラムにおいて「リーガルテックの先行研究と新潮流(過去・現在・未来)」に登壇する身に余る機会を頂きました。講演では、学者・実務家・学生の皆様を聴衆として、21年12月時点でのリーガルテックの先行研究を総まとめにする形で、広く、最新の情報やサービス状況を共有いたしました。

3-3: 現在の調査・執筆の状況

講演後の21年12月以降、「弁護士法第72条とリーガルテックの規制デザイン」(*)の研究・執筆に(大手法律事務所の若手有志の先生とともに)着手しました。

リーガルテックの研究を開始した理由は、先行研究において既に弁護士法第72条との関係はある程度整理されていましたが、その一方で、立法論も含む将来の規制デザインの選択肢を幅広く提示した研究がなかったからです。

冒頭にも報告したとおり、日弁連の機関紙『自由と正義』の編集委員会にはお目通しをいただいたのですが(深謝)、力不足で寄稿の掲載には至らず、多くの方のご支援で、上下にわけて、掲載が決まりました。詳細はまた後日ご報告申し上げます。ご支援くださった皆様に対し、この場を借りて御礼を申し上げます。11月4日提出に向けて手直しを進めております。

4 おわりに(引き続きお役に立てるような調査を進めます)

浅学菲才ではございますが、本記事や公刊予定の拙稿が、何かの議論に貢献できればこの上ない幸いです。21年12月当時、大手法律事務所の「テクノロジーと法」に関心を持ってくださっている若手の先生と研究を開始した際には、もっと遠い未来に議論が起こった際に、先行研究が既に整理してあり、新しい「規制デザイン」について基礎的な枠組みが提示できていたら、多くの方の役に立つはずだよね、と皆でワクワクとお話をして、隙間時間を持ち寄り、研究に取り組んできました。

個人的には、近時の弁護士法第72条とリーガルテックとの関係の盛り上がりを見て、大変驚いております。

松尾先生のご論説が埋められていない箇所(立法論)を、わずかでも埋められたらいいなという前向きな姿勢で続けていたところ、偶然、予想だにせず、研究していたテーマに多くの関心が集まることにまだ戸惑いを隠せませんが、皆様の調査のお時間の節約になれば幸いです。また、ドイツ・米国での動きも調査しており、また報告申し上げます。

最後に、浅学非才の筆者でございます。また、時間的にまだ読み込めていない部分も沢山ありますので、記載に誤解や盲点があればお許しください。本稿が皆様の思考整理や調査の起点として1mmでもお役に立てば望外の幸いです。

(5 利益相反開示)

なお、リーガルテックの議論に関して、私は、弁護士法に恩恵をうける弁護士であり、かつ、リーガルテックの1人のユーザーであり、様々な立場を有します。そのため、リーガルテックに関しては、調査・執筆を行う際には、利益相反について透明性を持ちたいと考えております。この記事や公刊予定の「弁護士法第72条とリーガルテックの規制デザイン」が利害関係者からお金を受け取って執筆されていたら皆様、内容の中立性について、がっかりされると考えるからです。以下、開示となります。

月刊登記情報(きんざい様)に連載中のリーガルテックの各論説、本ブログ記事及び公刊予定の「弁護士法第72条とリーガルテックの規制デザイン」(刊行予定)に関して、開示すべき利益相反関連事項はございませんが、思いつく限りの詳細な内容は下記の通りです。

  • 調査・執筆に関して、掲載された出版社様からの原稿料(例:きんざい様からの原稿料)を除き、報酬の受領はありません。
  • 調査・執筆は、著者個人の私費で実施されており、第三者からの調査・執筆の費用提供・援助はうけておりません。
  • リーガルテックを提供する各社・団体様との間に、法律顧問契約・法律相談・公共政策を含む弁護士業に係る委任契約等は締結されておりません。
  • リーガルテックを提供する各社・団体様との間には、講演会の所定の講師料、書籍等執筆による所定の執筆料を、他の講演者・執筆者同様の基準により、受領している場合があります。なお、後輩であった堀口さんの起業時にお誘いを頂き、旧株式会社Autoract(現 FRAIM株式会社)様の普通株式を若干保有しておりますが、上記記載事項以外に、同社との間で開示すべき利益相反関連事項はございません。

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(了)

※記事に関しては個人の見解であり、所属する組織・団体の見解でありません。なお、誤植、ご意見やご質問などがございましたらお知らせいただければ幸甚です(メールフォーム)。

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