電子署名法/20年前のルールが動いた(最新まとめ)



書面主義・押印主義の規制改革のまとめ

本エントリの狙い

本エントリは、第1に、7月2日までの無数の脱ハンコ(電子署名含む)の流れを2つのQ&Aにまとめ、過去の議論をこの記事から大きく追えるようにしました。第2に、筆者の日本組織内弁護士協会での電子署名法のルール形成に関する感謝(御礼)といくつかの裏話を記しました。

正直、議論の推移が4月末から早すぎて全く追えていない。まとめて欲しい。

Q1:ここまでの書面主義・押印主義の規制改革の流れを改めて教えて欲しい。

◯ 2020年7月2日(火)に公表された規制改革推進会議(本会議)にまとまっている。

◯ 下記資料3「書面規制、押印、対面規制の見直しについて」が7月2日までに講じられた措置がまとめられている。

資料No.資料名
資料1規制改革推進に関する答申(PDF形式:614KB)
付属規制改革実施計画のフォローアップ結果について(PDF形式:962KB)
資料2デジタル時代の規制・制度について(令和2年6月22日 規制改革推進会議決定)(PDF形式:343KB)
資料3書面規制、押印、対面規制の見直しについて(PDF形式:304KB)
Q2:首相に手交された2020年度版の「規制改革推進に関する答申」の電子署名などに関する部分を教えて欲しい。

◯ 資料16頁以下が該当箇所である。以下に抜粋し重要な箇所を太字及びハイライトした。


(5) 書面規制、押印、対面規制の見直し 

 <基本的考え方> 

今般の新型コロナウイルス感染症の拡大を契機とした新しい生活様式により、不必要な出社や他者との接触の機会を減らすことが求められている中、書面のやり取 りや押印等のために出社を余儀なくされるという事態ができるだけ生じないよう にしていく必要がある。 民間事業者間の手続において、民間事業者が押印の廃止や他の方法による代替をする際には、それによりどのような影響があるか等の懸念が伴う。規制改革や各業界を所管する府省庁からこれらの懸念点に対する考え方を示すことで、民間事業者 の押印の廃止や代替に向けた動きを促進すべきである。 また、押印の代替手段としては、メール等含め様々な電磁的手法が考えられるが、 電子署名の活用も有効な一手段である。電子署名や認証サービスとして、現在、様々な形態のサービスが生まれ利用が広がっているが、それぞれのサービスについて、 電子署名及び認証業務に関する法律(平成 12 年法律第 102 号。以下「電子署名法」という。)における取扱いが不明確である。コロナ危機への対応やデジタル技術の 活用の観点も踏まえ、クラウド技術を活用した電子認証サービスの電子署名法上の取扱いを速やかに示すとともに、今後抜本的な制度改正も視野に入れた見直しが必要である。 さらに、民間事業者間における手続については、特に不動産関係、金融関係、会社法関係において書面の電子化や押印の不要化、対面規制の見直しを求める声が多 くある。これらの分野において必要な緊急対応を行うとともに、引き続き問題点の 洗い出しを行い、手続の見直しを早急に行っていかなければならない。 なお、書面規制、押印、対面規制の見直しについては、感染症対策として速やか に緊急的措置を行うとともに、今回の措置が社会に与えた影響も踏まえつつ、今後、 企業の生産性向上の推進や緊急時への備えとして、引き続き取り組んでいく必要が ある。 以上の基本的考え方に基づき、以下の措置を講ずるべきである。

 <実施事項> 

【筆者注:実施済】a 内閣府、法務省及び経済産業省は、商慣行として押印が定着している民間事業 者間の商取引等について、民間事業者による押印廃止の取組が進むよう、押印に 関する民事基本法上の規定の意味や、押印を廃止した場合の懸念点に応える考え方等を示す。 

【筆者注:令和2年度、できるだけ早期に措置】b 総務省、法務省及び経済産業省は、サービスの利用者が作成した電子文書につ いて、サービス提供事業者自身の署名鍵による暗号化を行うこと等によって当該文書の成立の真正性及びその後の非改変性を担保しようとするサービスであっても、当該サービスの利用者の意思に基づきサービス提供事業者の判断を交えず機械的に行われることが技術的・機能的に担保されたものがあり得るところであり、このようなサービスに関して、電子署名法第2条第1項第1号の「当該措置を行った者」の解釈において、当該サービスの対象となる電子文書に付された情報の全体を1つの措置として捉え直してみれば、当該サービスの利用者が当該措 置を行ったと評価できることについて、その考え方をQ&A等で明らかにし、広く周知を図る。 

【筆者注:令和2年検討開始、早期に結論】c 総務省、法務省及び経済産業省は、電子署名に対し、民事訴訟において署名・押印同様の推定効を定める電子署名法第3条の在り方に関して、サービス提供事業者が利用者の指示を受けて電子署名を行うサービスなどについても一定の要件を満たせば対象となり得ることに関して、その考え方を明らかにする。 

【筆者注:令和2年度上期措置】d 国土交通省は、不動産取引に係るITを活用した重要事項説明について、賃貸 取引においては本格運用、法人間及び個人を含む売買については社会実験を実施 しているところ、社会実験における実施報告、アンケート等の参加事業者の責務 について、負担軽減を図り、環境整備に努める。 

【筆者注:直近の法改正の機会を捉えて速やかに法案提出】e 国土交通省は、不動産の賃貸取引における重要事項説明書等の書面の電子化に ついて、社会実験を行っているところであり、それを踏まえつつ、不動産取引に おける重要事項説明書等の電磁的方法による交付等に向けて宅建業法の関連規定について、改正措置を講じる。書面の電子化の本格運用に際しては、対面の場 合とは異なり事前の電子メール等での説明が容易である等オンライン取引の特 質があることを踏まえ、利便性について、総合的な判断により一定の評価を受け た手法については積極的に活用するものとする。 

【筆者注:令和2年度上期措置】f 金融庁は、金融機関における口座開廃、融資の申込み等、種々の金融関連手続 について、金融業界と連携して検討を行う場を設けた上で、業界全体での慣行の 見直しを行い、書面、押印、対面の不要化や電子化を促進する。 

【筆者注:実施済】g 法務省は、電磁的記録をもって作成された取締役会の議事録への出席取締役等 による「署名又は記名押印に代わる措置」(会社法第 369 条第4項、会社法施行 規則(平成 18 年法務省令第 12 号)第 225 条第1項第6号、第2項)について、 電子契約事業者が利用者の指示を受けて電子署名を行うサービス等も含まれる ものとし、その解釈について周知徹底を図る。

(以上)

御礼:とある2人の優しさからはじまった

2020年4月26日の夜、私は、いろいろな方へメールをお送りしたり、お電話をしたりして、「規制改革推進会議の事務局」の方をご紹介いただけませんかと尋ねまわっていました。夜遅かったため、帰宅された方も多く、少し途方に暮れていました。

私も所属している日本組織内弁護士協会が発表した2020年4月21日付プレスリリース「組織内弁護士のリモートワーク/テレワーク実施状況調査結果」(有効回答数 610 名)により、押印のため緊急事態宣言の中、自身やご家族への感染リスクを冒して出社されている仲間の存在を知り、Airbnbで学んだ「ルール形成」を今度は公益のために役立てられないかという思いが溢れていました。その後、日本組織内弁護士協会の理事会に緊急で提案を行い、多くの方のご支援で、提言書を提出しようという話になり、なんとか、28日の本会議前の前日27日に提出したいということで悪戦苦闘していたのです。

26日夜、恩師の1人がお忙しいであろうに優しく「私から明日朝一番でメールしておきますよ」とお返事をくださいました。

また、もう1人のお世話になっている方がそのネットワークを使って、連絡をとってくださることになりました。

このお二人のおかげで、27日に、ホットラインからの提出に加え(お知らせ「新型コロナウイルス感染防止を妨げる電子署名法の改正に関する提言を規制改革推進会議へ提出しました」参照)、事務局の方々にも提言をお伝えすることがかなったのです。

大河の一滴

そして、4月末から本日に至るまで、多くの方が知恵とアイデアを与えてくださり、チームとしてご一緒することができました。私達がルール形成に与えた力は、大河の一滴にすぎませんが、日本組織内弁護士協会のメンバーの一員として携われたことを誇りに思います。

評論家から小さくてもルールを作る行動家に(私見)

最後に、規制改革推進会議のプレゼン発表時間は5分きっちり。最初で最後、ワンチャンスです。そのような資料で何を訴え、何を訴えないか、細部を削ぎ落とし、一語にまで究極の選択を行っていきます。今回、資料にはこれまでの電子署名法の歴史や経緯をすべて盛り込むことはしておりませんでしたが、これは別に過去の歴史や先人たちに敬意を払っていないということを意味するものではありません(むしろ、研究同様、主語はIではなくwe、先人の重ねたモノの積み重ねだと思っております)。ただし、最も重要なことは、現在の電子署名法が、「8割以上」のサービスシェア=すなわちお客様に利用されているサービスを、電子署名とし真正面から保護しておらず、ほっといていたことがずっと続いていたという点です。

クラウドコンピューティングが登場した2006年以降、「ルールを変える」というルール形成が理由はどうあれ見送られてきたことが大きな課題だと思っております。今回は、コロナの感染拡大という大きな機運があったことも事実ですが、そうではない平時においても、ルールがきちんとメンテンナンスされていくことが大事だと思っていますし、立法時の先人の知恵を維持し時代にあった状態に保つこと(今回の私達の主張で言えば技術的中立性を回復するようなルールを形成すること)、その行動を実際に着手し遂行することが大事だと思っています。論評・批判は大切なものです。他方で、評論家にならず、「実行」していくことが、今後法律家が社会をより助けることができ、また、未来の私達の子供世代からも期待されていることなのではないでしょうか(私見です)。

最後に:規制改革推進室の皆様への惜しみない最大の拍手と感謝

最後に、これも私見ですが、私が最も尊敬し感服するのは、この規制改革推進という国家目標を見事遂行され、決して表舞台に華々しくは登場しないけれども、この規制改革に魂をかけている副大臣・官僚を含む現場の行政官の方々の存在です。他の省庁と激論を交わし、時に無理難題とも思われるゴールをあてがわれ、民間団体の意見を同じ目線にまで降りてきて語り合い、そして、ときに対象省の歴史・ロジックにあわない難題も最大限の規制改革を実現するべくアイデアをひねり出し、民間と力をあわせて、この答申を作り、支える方々がいます。今回、お名前は挙げられませんが、私が出会った室の方々は、それは熱い思いを持たれた智謀に溢れたハートフルな方々ばかりでした。その意味で、このエントリを締めくくるためには、私は、規制改革推進室の皆様への惜しみない最大の拍手と感謝を表さずにはいられないのです。

世辞を抜きにして、規制改革推進室に集結した方々と働き、一般論として「官僚は…」などと知りもせず批判される方も稀にいますが、日本を良くしようと深夜残業で疲れた身体に鞭打ってそれでも目は燦々と輝く官僚の方々を見て、すごく大きな刺激をいただいております(そのワークライフバランスがルールとして実現されることも同時に切に願っております)。


参考資料

(了)

※記事に関しては個人の見解であり、所属する組織・団体の見解でありません。なお、誤植、ご意見やご質問などがございましたらお知らせいただければ幸甚です(メールフォーム)。

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