法務エレベーターピッチ「人工知能(AI)と”Useless Class(無用者階級)”」

*このコーナー(投稿)は、将来、論文・プレゼンテーション・会議・報告書・国内外の上司・同僚との会話に利用できそうな有意義な定義・データ・リンクを短くまとめたものです*

*「無用者階級」の訳は記事(末尾深掘りご参照)に基づきます*



無用者階級が生みだされるという冷徹な予想

同僚A「はぁ、午前中も細々とした契約書の修正作業で終わってしまった。人工知能(AI)が法務部門の契約書を全て作ってくれるようになったら、僕はお払い箱ね。」

あなた「鋭い視点だと思います。

最近、『頭脳資本主義』という言葉を知ったのですが、駒沢大学の井上智洋先生は、AI等の技術革新が資本主義の常識を変えると説いています。『頭脳資本主義』とは、脳こそが価値であり対価であるとする考え方のようです。例えば、労働者の数を集めて生産性を高めることが国内総生産(GDP)を決めてきましたが、頭脳のレベルがGDPを左右する時代になります。」

あなた「井上先生は、ユヴァル・ノア・ハラリ教授(ヘブライ大学)『ホモデウス』を引用しつつ、次のように指摘します:

深刻なのは、人間の脳を凌駕したアルゴリズムの出現によって、生身の労働者が「不必要」になるという事態だ。多くの仕事が人工知能に任せられるようになり、人間はお払い箱となる。

ほとんど何でも人間よりも上手にこなす、知能が高くて意識を持たないアルゴリズムが登場したら、意識のある人間たちはどうすればいいのか?(ハラリ『ホモ・デウス』)

ハラリは、「Useless class」という言葉を用いており、これは「無用者階級」「役立たず階級」「不要階級」などと訳されている。人類全員ではないにせよ、大量の役立たずの人間が発生するという。

二十一世紀には、私たちは新しい巨大な非労働者階級の誕生を目の当たりにするかもしれない。経済的価値や政治的価値、さらには芸術的価値さえ持たない人々、社会の繁栄と力と華々しさに何の貢献もしない人々だ。この「無用者階級」は失業しているだけではない。「雇用不能」なのだ。(ハラリ『ホモ・デウス』)

2019/1/1付 日本経済新聞 朝刊

AI時代の本格到来「前」に事務仕事を多く抱える法務部門の私達はどのような能力を磨くべきか

同僚A「ちょっとちょっと、かなり怖いことをサラリと言うね。『無用者階級(Useless Class)』だなんて、イスラエルの先生のつけた英語の名称や現時点での仮訳はともかく、僕は日本では工夫した訳語が必要になると思うよ。

いろいろ腑に落ちない点もあるけど、井上先生は、AIと対比して、どのような能力を磨くことが重要とおっしゃっているのか気になるから教えてくれないかな。」

あなた「私もAI関連の記事を読むときは、では、テクノロジの転換時代にあって、人間として、何が重要なのかという各論者の主張を丁寧に拾うようにして比較しています。井上先生の論文・記事をクイックにリサーチしたところ、1つ興味深い記事(AI時代をサヴァイヴするために必要なのは「悟性」と「危機感」だ)がありました。先生は「感性」ではない、むしろ、「悟性」だといいます。

「悟性」とは、広辞苑によれば、「intellect」、[哲]①広義には思考の能力、②カントにおいては感性に与えられる所与を認識へと構成する概念能力で、理性と感性の中間にあり、科学的思考の主体、③ヘーゲルにおいては、弁証法的思考能力としての理性に対して、対象を固定的にとらえ、他との区別に固執する思考能力、とされています。」

(以下引用)

岩渕 (略)井上先生はAI時代において重要な価値をもつ能力ってなんだと思われますか?

井上 AI時代に何が必要なのか問われると、結構多くの人は「感性」と答えたりするんですが、むしろAIってすでに絵画や音楽をつくれるので感性的な部分はある程度はカヴァーできている。(略)むしろ「悟性」こそが大事だと思っています。それは考える力のことですね。いまのAIってたくさんの数値データから関係性を抽出することはできるけど、言語的な思考をしたり抽象概念を扱ったりすることが難しい。まだまだ数値化できないものが世の中にはありますから。思考力は人間ならではの能力だと思っているので、学生にもそこを磨いてほしいなと思っています。(略)

岩渕 なるほど。「悟性」というのは、われわれの業界でいうと「ロジカルシンキング」みたいな言葉と置き換えられるかもしれません。米国で生まれている「デザインシンキング」も近いですね。(略)「危機感」、大事ですよね。危機感を失うと守りに入ってしまったり、色々なことを考えなくなったり。そうすると思考も固定化してしまいますから。常に危機感をもちながらビジネスに臨むことで新たなテクノロジーを積極的に吸収できるし、イノヴェイションを起こすことが可能になるのだと思います

井上 そうですね。わたし自身、そういう人たちを育てられれば日本も「AI後進国」なんて呼ばれなくなるのかなと思っています(笑)。

AI時代をサヴァイヴするために必要なのは「悟性」と「危機感」だ (WIREDオンライン)

深掘り資料:

  1. 人工知能は「役立たず階級」を生み出すのか―「ホモ・デウス」が示唆する人間不要の未来(東洋経済オンライン)
  2. AI時代をサヴァイヴするために必要なのは「悟性」と「危機感」だ (WIREDオンライン)
  3. CiNii 論文検索―井上先生
  4. 井上智洋先生 Twitterアカウント
  5. [関連 推薦自習図書] 小川 仁志『AIに勝てるのは哲学だけだ――最強の勉強法12+思考法10』(祥伝社新書、2018年)
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(了)

※記事に関しては個人の見解であり、所属する組織・団体の見解でありません。なお、誤植、ご意見やご質問などがございましたらお知らせいただければ幸甚です(メールフォーム)。

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