企業内法曹強化がコーポレートガバナンスの改善につながる?

機関構造の改革

会社法でならった理想と会社の現実

社会人経験のない学生の頃、コーポレートガバナンスを具体的にイメージすることは難しく、それでも会社法の概念を勉強していたと思います。

ところが、「会社法の授業でならった『取締役相互の牽制』『監査役による取締役会の牽制』が、現実の会社では『お飾り』や『仲良しグループの議論』になっていて、学問と実態が乖離している」―そう思ったという感想を聞いたことがあります。

機関構造の改革によるコンプラ向上は進むが…

ご承知の通り、社外取締役など「機関構造」の改良により、日本のコーポレートガバナンスは向上しているといわれています。

本日は、法務部門の強化がガバナンスひいてはコンプライアンスの向上につながるという見解をご紹介したいと思います。

郷原先生の説く「コンプライアンス」

さて「コンプライアンス」の学術的な整理は専門書に任せるとして、まずリアリティのあるコンプライアンスを少しおさらいしてみましょう。

日本を代表する専門家・郷原信郎先生をご存知の先生も多いと思います。日産自動車のゴーン会長の事件に関しても、積極的な発信を続けられています。

先生の著書の中に、8年前のものですが、当時の大阪地検特捜部の証拠改竄の事案に関して書かれた書籍があります。郷原信郎『組織の思考が止まるとき ‐「法令遵守」から「ルールの創造」へ』(2011年、毎日新聞社)です。

この中で、郷原先生は、コンプライアンスを「適法か否か」を超えた、社会的要請への適応としてコンプライアンスの概念を提唱しています。

「社会的要請への適応」としてコンプライアンスを捉える時、2つのキーワードがある。社会の要請に対する鋭敏さ(センシティビティー)と、社会の要請に対してセンシティブな人や組織がお互いに力を合わせること(コラボレーション)である。

コンプライアンスは、この2つの組み合わせですべてを考えることができる。

郷原信郎. 組織の思考が止まるとき「法令遵守」から「ルールの創造」へ (p.76). . Kindle 版.

ここでは、郷原先生が、コンプライアンスを形式的な「何が適法か」より広い「何が正しいか」を含むと説かれている点が重要です。

ハイネマン氏の説く、ジェネラルカウンセル・法務部門の広範な役割 〜「何が適法か」だけではなく「何が正しいか」を問い続ける〜

GEの元ジェネラルカウンセルであるベン・W・ハイネマンJr氏は、ジェネラルカウンセルの役割について、下記のように述べているのは、繰り返し、他の記事でもお伝えしているところです。

『パートナーとガーディアン』(略)企業を支援するという重要な役割を演じるジェネラルカウンセルが、高い業績を倫理性及び健全なリスク管理と融合させるという基礎的な目標(を負う)…

企業と社会との交流の場において、業績や倫理性、リスク管理に関して、「何が適法か」だけでなく、「何が正しいか」を常にしつこく問わなければならない

この「正しいか」という問いかけが生じるのは(略)ジェネラルカウンセルが意思決定に貢献するとともに、価値を創造し、高い倫理性と健全なリスク管理を企業に根付かせるという戦略や作戦目標を実践するという企業の生存に関わる役割を演じているからである。

ハイネマン『企業法務革命―ジェネラル・カウンセルの挑戦―』500頁(商事法務、2018年)

両者の共通点・相違点

共通点

郷原先生の著書を先に読んでいたため、当時は気が付きませんでしたが、ハイネマン氏の『企業法務革命』を読み、さらに郷原先生の著書に戻ったとき、実は、両者が、「何が正しいか」を問う役割・仕組みの重要性に触れていることに気が付きました。両者は「正しいこと」の実現という「山頂」を目指し、やや異なる2つの山道をそれぞれ呈示しています(どちらが誤りというものではないのは当然です)。

相違点

しかし、両者の論には、大きく異なる点があります。そして、実はこの差異が、もしかしたら、米国のジェネラルカウンセルを頂点とする法務部門が担い、日本の伝統的法務部門が担っていないものかもしれません。

センシティビティーとコラボレーション

郷原先生は、著書においてセンシティビティーとコラボレーションを説き、まずは個々人のセンシティビティーが大切であるとした上で、さらに、バランスが取れた組織の重要性を説明します。

さらに、横のコラボレーションとして、野球の外野手の捕球を例に上げて、「オーイ」と「オーライ」という声掛けをかけあって、不祥事の原因・事象を飛んでくるボールを補球することが大切と説きます。

積極的にボールを捕りに行くというアクティブなプレーヤーからなる組織 でなければ、今のような経済状況の下で適切な対応をすることはできない。

郷原信郎. 組織の思考が止まるとき「法令遵守」から「ルールの創造」へ (p.82). . Kindle 版.

CEO以外の誰がリーダーシップをもって実働するのか?

しかし、郷原先生の著書は、横のコラボレーションに記述が多く割かれています。

「ジェネラルカウンセルというリーダーシップ(法務部門)が強力に何が適法かだけではなく、何が正しいかを考え意思決定に貢献する」ことに似た、誰がそのコラボレーションを指揮し、CEOに対して最終責任を負い、日常の「正しいこと」を根付かせていく役割を担うのかがあまり明瞭には書かれていません。

逆にハイネマン氏は、とりもなおさず、これはジェネラルカウンセルを頂点とする法務部門の役割だと説いています。

企業内法曹により合法的・合理的意思決定が今後の重要な検討の鍵であると述べる唐津論文(2011)

法務のパワーアップがコンプライアンス向上につながると指摘する点には同意

実は、法務部門がより広範な権限やリーダーシップを担うこと、すなわち、企業内法曹の進化により、コンプライアンスの向上が効率的に実現できると説く見解があります。東京大学法科大学院ローレビュー(2011)に掲載された、東京大学教授・唐津恵一先生の「企業内法曹」についての一考と題された論文です。

先生は試論として、企業内法曹の強化がガバナンス強化につながるところ、そのためには、魑魅魍魎の跋扈する法務部門の改革が必要と説きます。

タイトルロゴ
「企業内法曹」について一考 唐津恵一 教授

唐津教授の指摘:「魑魅魍魎の法務部門からの駆逐」

唐津教授は以下のように主張されます。

人数的には法律事務職域の一大勢力となった企業の法務専任担当者であるが、その構成員の実態を見ると、魑魅魍魎が跋扈する世界といってもいいほど、学歴、職歴、能力などが多様な者の集まりである

職業倫理教育を受けたと思われる弁護士資格保持者や法科大学院修了者はほんの一部いるものの、キャリアアップの過程でたまたま在籍している者や、会社のためではなく経営者のためにもっぱら働いている者、ひどいケースでは違法行為や経営者の責任転嫁に加担する者などなど、今のままでは企業内の法務専任担当者を到底専門的な職業人(プロフェッショナル)として認知できるものとはいえない。

唐津恵一『「企業内法曹」について一考』東京大学法科大学院ローレビュー第6号(2011)205頁

この主張は下記の通り統計に基づいているのか、先生のご経験に基づくものかはローレビューの文面上は判断できません。

「魑魅魍魎が跋扈する」「企業内の法務専任担当者を到底専門的な職業人(プロフェッショナル)として認知できるものとはいえない」については、おそらく私の見たことがない(見えていない)世界におそらく存在するもので、先生の警鐘にうなずく法務部門の方もいらっしゃるのかもしれません。

私はやや驚きをもってこの指摘を受け止めています。なぜなら、法曹資格を問わず、日々高い職業倫理と志をもって勤勉にガーディアン機能を果たしている法務部門の方をたくさん存じ上げているからです。

皆様はどう思われますでしょうか、深くうなずくかたもいれば、ちょっと自信を持ってそうだと断言できない方にも分かれるのかなと思います。

教授の指摘する法務部門での担当者レベルの格差は重要な問題である

他方で、教授が言わんとしていることが、「企業内の法務専任担当者」のレベルが千差万別であり、法律の専門家として果たして適任かクエスチョンマークある法務部門で働く者がいることは紛れもない事実だと思います。

実際に、他社様の弁護士がいない法務部門と契約書のやりとりをしていると、民法を読んだことがないと思われるような修正案がきたこともあります。

会社(相手方当事者)にとって致命的な条文(損害賠償の責任や表明保証など)は手付かずで「てにをは」や非常に細かい非本質的部分が修正されてかえってきた例があります。

改革の第1歩は、法務人材の能力の客観化

法務の業務は、会社によって、法務部のとらえかたも社内キャリアもゴールも手段も千差万別です。

しかしながら、担当者レベルの専門性の格差については、英語の能力を測定するTOEICのような統一的な指標がないのも現実です。客観的なメモリに照らして自分の位置情報がわからなければ、自分が実は中央値よりも低位にいるかもわからないと思います。

まだ思案している最中ですが、ガーディアンとしてパートナーとして、各社がLevel1-10まで、それぞれの地位で期待される専門性を図示するようなことからはじまるのかなと思っています。

これについては日を改めて書けたらと思います、研究を続けます。

[Discussion&Tip] 本稿から法務部門/組織内弁護士として「引き出し」に入りそうなテーマ

  1. 唐津論文をひとまず批判せずにしっかりと読む。
  2. 法務部の管理職同士や、若手の組織内弁護士同士で、唐津教授の指摘する「経営者の圧力からの独立性」(逆に言えば、法務がNoといえば経営判断を変えられるか)を1点から10点でスコアリングしてみる。
  3. 自社の法務の独立性が阻害されている要因を3つ書き出してみる。
  4. 阻害要因を改善するためのプランを練り、実行に移す。
  5. その際、法曹資格の有無、とかではなくて、チーム全員が足りない部分をどう伸ばしていけるのか、専門性を向上させる機会などを法務部が提供しているかなど、底上げに集中すべきで、「偏見」「Judge(判断)」するような場にならないことが重要だと思います。

(了)

※記事に関しては個人の見解であり、所属する組織・団体の見解でありません。なお、誤植、ご意見やご質問などがございましたらお知らせいただければ幸甚です(メールフォーム)。

記事をご覧いただきありがとうございます、次回アクセスのご案内です:「若手組織内弁護士」でご検索ください。「inhouselaw.org」のURL直打ち も便利でございます。

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