宿泊サブスクサービスの適法性に関するアップデート(グレーゾーン解消制度により「黒」)8/26、9/6[京都市公文書開示結果]補記有

宿泊のサブスクリプションサービスオンラインによる定額泊まり放題サービスを検討している事業者医薬・生活衛生局生活衛生課【申請日】令和3年7月19日
【回答日】令和3年8月17日
概要[PDF形式:71KB]
グレーゾーン解消制度(厚生労働省ウェブサイト)

本記事では、(無許可宿泊施設を用いた)宿泊サブスクサービスの適法性に関する重要なアップデートをお届けします。

※記事に関しては個人の見解であり、所属する組織・団体の見解でありません。

はじめに:無許可宿泊施設のサブスクは「黒」

はじめに・サマリー

8月17日、厚生労働省から重要な発表がありました。(無許可宿泊施設を用いた)『宿泊サブスクサービス』(定額空き家泊まり放題)について、グレーゾーン解消制度を通じて、結果的に「白黒」の「黒」がつきました。

無許可宿泊施設を用いた『宿泊サブスクサービス』の問題は、2020年に発表された先駆的な「西出=高田論文」を皮切りに、実務家から指摘が上がっていました。他方、学会や実務上、議論は活発ではありませんでした。

—–補記—–

補記1

末尾に加筆した通り、既存の個人の方や事業者のように、旅館業・国家戦略特区法・住宅宿泊事業法に基づく人を宿泊させるための許認可・届出が適切に取得されていれば問題ありません。料金体系としてサブスク=月額定額を用いることは旅館業法が規制するものではないと解されます。

補記2

京都市の公文書(後掲・旅館業法違反の行政指導及び報告命令)によれば、既に2年前2019年8月の段階において、厚生労働省側は「旅館業法に違反する」という照会回答(行政の法解釈・法適用)を京都市にメールで返答していたようです。もしかしたら、京都市から行政指導を受けた事業者(特定不可)は、2年前の段階で、厚生労働省の見解(賃借権準共有の抗弁が機能せず、旅館業法に抵触すること)を認識していた可能性があります。余談ですが、最近研究しているテーマとの関連で触れると、一般論というお断りをおいてですが、2年前の時点で法令違反を認識していた場合、「法令解釈が不明瞭な場合の取締役責任」について「法令解釈が不明確であったか(その時点から明確になったのではないか)」がポイントとなり、当局から行政指導を受けた企業が上場企業であれば取締役の法令遵守義務(会社法第355条)を巡る株主代表訴訟、未上場企業であれば2019年8月以降にもしVC等から投資を受けていれば投資契約における表明保証・遵守事項(法令の遵守)が問題となる可能性があります。ここは講学上の備忘程度に下記に簡単に所感を述べます。

補記3(8/26追記)

読者の方から研究に関する情報提供をいただきグレーゾーン解消制度の回答とは異なる、無許可施設を利用した短期宿泊サブスクサービスに関する「公式通達」(?)が存在するかもしれないとのことでした。そのような通達・事務連絡・通知(以下「通達等」という。)は過去聞いたことがなかったため、調査に漏れがある可能性も念頭に、厚生労働省の医薬・生活衛生局 生活衛生課に対して、お電話で確認しました。結論としては、1ヶ月未満の短期宿泊を認めるような生活衛生課発の通達等はない、また、サブスクサービスを念頭においたグレーゾーン解消制度回答とは別の通達等も認識していない、との旅館業法ご担当者様のご回答でした。法律家の方はご存知の通り、行政文書の存否の確認は、行政文書開示請求で裏付けがとれます。例えば、不開示(不存在)決定がでれば公式に「存在しない」公的な裏付けになるので、時間がある際に、研究に漏れがないように調査してみたいと考えております。まだ研究途上のため、漏れや思い違いなどがあれば引き続きご指導ください(またご容赦ください)。

補記4(9/6追記)

京都市が京都市情報公開条例に基づいて2021年9月2日付で適法に開示した公文書は、下記の通りです(なお、京都市は墨消しをしておりませんが、厚生労働省のご担当者のご氏名・メールアドレスについては任意的に墨消し処理をしています)。

2021年5月25日

発 厚生労働省 生活衛生課 指導係長

宛 全国の都道府県、保健所設置市、特別区の衛生主管部局

内容は、事業者名(墨塗り)が「旅館業法違反のおそれのある事業者」として周知されており、そのサービス概要が記載されております。また、研究上注目したのは下記の部分です。

「現在のサービス形態は旅館業法上の許可が必要であると言わざるを得ない」と当課から伝えています。

【注意喚起】旅館業法違反のおそれのある事業者について、と題する厚生労働省発のメール

実態に留意しつつ旅館業法違反を判断すること、事業展開への周知が目的とうかがわれます。

—–補記おわり—–

無許可宿泊施設を用いた「定額泊まり放題」に関する従来のネットの言説

ネットレベルでは、主に:

  1. サブスクだからOK
  2. 会員審査する閉じたコミュニティだからOK
  3. 全国施設の賃借権を会員全員で『準共有』(後述)するからOK
  4. 地方創生に資する空き家活用という新ビジネス目的だからOK

等という言説が、一部専門家から登場していました。

しかし、本当に、法的にそうなのでしょうか?

西出=高田論文による指摘から約1年

この点、実態に照らすと、裁判所・行政機関に「旅館業には該当しない」との主張(理屈付け)は通用しない、と観光セクターの法曹間では指摘されていました。

例えば、先駆的な論説として、西出智幸=高田翔行「宿泊・居住サブスクリプションサービスと行政許認可等に関する検討」Business Law Journal13巻8号(2020年)62-73頁があります。(*初出で出版年を勘違いしており1年前の論説でした。)

賃貸借の準共有だから無許可で旅館業OKは正しいか?

どうも、「賃借権の準共有(民法第264条)(*)と法的に構成すれば、旅館業法等の許認可不要」という旨の法的助言もあったようです。

当職は、既に京都市から、「定額泊まり放題サービス」に対する「行政指導及び二度にわたる報告命令」に関する公文書を入手しており分析を続け、他の法曹・専門家とも意見交換を続けています。本年12月の日本観光研究学会の全国大会にて、西出=高田論文を踏まえて、未解明の点について、京都市の行政指導・報告命令を題材に、調査を続けて論説を提出予定です。

京都市が開示した公文書(厚生労働省への照会、行政指導、報告命令)

下記は、個人として観光学・法学の研究のために公文書開示請求を行い、開示された公文書の一部です(注:黒塗りは開示時からなされていたもので、当職も、どの事業者に対する行政指導や報告命令なのかは不知であり、開示された情報から特定することはできておりません。また、事業者から提出された報告書などについては自筆のものがあり、開示されているものの、筆跡などから個人が特定されるおそれもあるため、掲載しておりません。まだ研究途上です。)

ざっと要約いたしますと、思ったよりも前、2年前2019年8−9月(2年前)の段階で、京都市が是正に乗り出し、厚生労働省も主務官庁として旅館業法違反と考えて差し支えないと京都市に教示していること、京都市が厚生労働省の見解を確認した上で行政指導及び二度の報告命令に至ったことがわかります。

コラム:実態は本当に準共有?

全国の無許可宿泊施設を賃借権の準共有(民法第264条)と真に構成する場合、民法の観点から、多くの疑問が免れないように思います(利用規約が対応しているように読めない可能性がある)。具体的には、民法第264条は「所有権の共有」を定めた民法249条以下を準用するが、宿泊サブスクサービスの場合、日々会員総数が変動することから、準共有された賃借権の「各共有者の持分割合(持分価格)」が不明です。

同時に、民法第253条第1項が「各共有者は、その持分に応じ、管理の費用を支払い、その他共有物に関する負担を負う。」とするが、月額費用は「持ち分に応じた負担」になっておらず、各人が月額定額費用を負担しており、本来の法が予定する共有(準共有)における費用負担の定めから乖離しているといえます。

法令解釈がグレーであったものが仮に「黒」となった場合の取締役の責任

更に議論をすすめると、無許可宿泊施設の泊まり放題についての取締役の責任はどうなるでしょうか?「黒」とされたが、一応、これまでグレーだったとして、以下、一般論・仮想的に検討してみます。

この点、渡部友一郎=玉虫香里=福島惇央「法令解釈が未確立の場合におけるリスクテイクと取締役責任―無過失の評価根拠事実としてのISO31022(リーガルリスクマネジメント)の運用」国際商事法務49巻5号(2021年)631−636頁での分析にあてはめてみます。グレーゾーン解消制度で「黒」と出ている場合、株主代表訴訟において、役員が、法令解釈が未確立であるという要件=無過失の評価根拠事実を主張することは相当難しくなると考えます。

また、グレーゾーン解消で「黒」になった後、無許可の宿泊施設を「賃貸借の準共有」等の法的構成で運営して、京都市の事例のように行政指導さらに強力な「営業停止命令」を受けて事業に損害がでたり株価が低迷した場合、上場会社であれば一般株主から代表訴訟、未上場会社であれば出資元のベンチャーキャピタル・事業会社等から投資契約に含まれる表明保証(法令の遵守)のリスクが顕在化すると思われます。次回の投資ラウンドや上場審査においても、事業モデルの適法性について、より厳しいDDや審査が行われると予想されます。

補記:2019年の段階で、主務官庁である厚生労働省と協議して見解を得た京都市が行政指導に至った場合、その一事をもって、「法令解釈が未確立性」が否定されるわけではありませんが、強力な「無過失の評価障害事実」になると考えられます。研究途上ですがご興味がもしございましたら論説をお送りいたしますので、お問い合わせからお知らせください。

ご参考:国際取引法フォーラム 定例研究会 「法令解釈が未確立の場合におけるリスクテイクと取締役責任 ―無過失の評価根拠事実としてのISO31022(リーガルリスクマネジメント)の運用―」のスライド資料

法の想定外についての私の考え

日経新聞は今年2月に「宿泊サブスクに規制の壁」と適法性についての問題提起がありました。尊敬する記者様で普段のご主張には賛同が多いのですが、この記事の「法の想定外」という点には俄に賛同できませんでした。というのは、2018年の住宅を宿泊に供せる住宅宿泊事業法の成立により法制度が整ったことに鑑みれば、「法の想定外」ではないだろう(=法令を守っている事業者や個人ホストさん同様、住宅宿泊事業法の届出をきちんとしてください、というだけの問題)、と感じるためです。

また、法律・ルールの「のりしろ」については、その法令・ルールをとりまく諸般の事情により千差万別であると考えます。その法令が1940年代にできたのか、民主的過程を経て2018年にアップデートされたばかりなのか、を比較したとき、おのずから、立法者が予測できなかったビジネスモデルというものは異なります。なんとなれば、2018年の段階で、既に、賃貸借契約により旅館業の許可を回避する短期宿泊ビジネスモデルやシェアハウスは存在していたところ、本件については、むしろ「立法者が2018年の住宅宿泊事業法で想定したところであった」というのが少なくないこの事業ドメインに携わる実務家の感覚です(もちろん私にも盲点があり、異なる見方もあると思います)。

この問題については、学会も実務上もあまり議論が活発でない中で、コロナにおけるテレワークで話題が先行しており、法的な問題点を「適法」に解消していく今後の流れを研究したいと思っております。

まだ研究途上で、いろいろと盲点や誤解、筆が至らない点も多々あるかと存じますが、また進展があれば共有いたします。

ご不明な点がございましたらどうぞお知らせください。

さいごに:適法なサブスク型宿泊

  1. 【無許可での営業をやめる】西出=高田論文でも指摘されてる通り、(普通の個人の方がやっているように)事業者も、無許可宿泊施設について、2018年6月にできたばかりの住宅宿泊事業法に基づいて届出を行う。または、旅館業法や国家戦略特区法に基づく許可を取得する。
  2. 【既に旅館業の許可をもつホステル等を在庫にする】1の応用ですが、サプライを適法な許認可を有する宿泊施設にするという方法が考えられます。
  3. 【宿泊日数下限を設定する】「生活の本拠」について、昭和61年通知(**)に従い、1ヶ月以上(30泊31日以上)を要件とする。なお、厚生労働省・観光庁・地方自治体保健所は、1ヶ月未満でキャンセルされる「1ヶ月以上を偽装する短期宿泊」について従来から神経を尖らせておりますので、形式的に1ヶ月以上の契約として、実態として宿泊客のほとんどが数日や数週間で退去するようであれば「旅館業」に該当してくると思われます。 (**)昭和61年通知(「下宿営業の範囲について」昭和61年3月31日衛指第44号)は、「施設の管理・経営形態を総体的にみて、宿泊者のいる部屋を含め施設の衛生上の維持管理責任が営業者にあると社会通念上認められること、及び、施設を利用する宿泊者がその宿泊する部屋に生活の本拠を有さないことを原則として、営業しているものである」とする。「生活の本拠性」は30泊31日以上の期間と解されており、数泊は問題外です。
  4. 【ルールをデザインする】住宅宿泊事業法の在宅型(不在型ではない)の180泊の上限日数(及び上乗せ条例)の緩和・撤廃を中長期のスパンで目指す。仮にこれが実現すれば、賃貸アパートでもときどきあるような、1Fに大家さんが住んで(住民票を移して業務時間中とかではなく居住する)、2-3Fにサブスク型宿泊の利用者を宿泊させるというような利用方法により、多拠点において、サブスク型宿泊のやりたいことができる可能性が出てきます。

補記:サブスクという料金体系自体は○

FBポストにコメントを頂いたので補足いたしますと、無許可の宿泊施設で「違法な旅館業」を営んでいるのが問題の所在で、例えば、全施設が旅館業の許可を適法に取得している大手ホテルチェール「APAMIホテル」(仮想の名前です)が「月○万円定額でAPAMIホテルチェーンがどこでも○泊まで使い放題」というのは問題ありません。適法な旅館業の許可を取得しているからです。

関連資料置き場

回答書(厚生労働省)

宿泊のサブスクリプションサービスオンラインによる定額泊まり放題サービスを検討している事業者医薬・生活衛生局生活衛生課【申請日】令和3年7月19日
【回答日】令和3年8月17日
概要[PDF形式:71KB]
グレーゾーン解消制度(厚生労働省ウェブサイト)

(了)

※記事に関しては個人の見解であり、所属する組織・団体の見解でありません。なお、誤植、ご意見やご質問などがございましたらお知らせいただければ幸甚です(メールフォーム)。

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